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2023.08.28

社会的処方と医療機関の役割

社会的処方と医療機関の役割

 

「社会的処方」という言葉をご存じでしょうか。

孤独や孤立、貧困による格差が問題視される中、人々の健康や幸福を守るために注目されている取り組みです。

 
本コラムでは、社会的処方とは何か、なぜ注目されているのか、そして社会的処方の具体的な事例や流れをご紹介いたします。
患者様の病気の背景から健康を支えたいとお考えの方や、社会的処方について知りたい方、ぜひご一読ください。

1.社会的処方の概要

1)社会的処方とは

社会的処方とは、患者・地域住民の健康を支えるために、薬など医学的な介入に加え、社会的な活動や機会を提供し、健康に影響を与えている社会課題を解決に導くことです。

2006年にイギリス保健省で推奨され、現在日本でも広がりが見られています。厚生労働省の骨太方針にも孤独・孤立対策として社会的処方の活用が明記され、複数の都道府県でモデル事業を展開するなど、重要視されている考え方です。

参照:令和3年 厚生労働省 保険局「医療・介護の総合確保に向けた取組について」令和5年 厚生労働省 「経済財政運営と改革の基本方針2023」

2)社会的処方の目的

人々の健康は、遺伝や生活習慣のような生物学的因子だけでなく、人間を取り巻く社会的因子も深く関係していると言われています。

社会的因子は、「健康の社会的決定要因(SDH)」とされ、社会・経済状況、雇用や労働環境、友人や家族との関わり、コミュニティーでの人とのつながりの豊かさ等が挙げられます。そして、SDHにより生じる健康状態の差を「健康格差」といいます。


社会的処方は、疾患に対する医療的な介入だけでなく、健康に悪影響を与えるSDHの改善により健康格差を是正し、患者の健康やウェルビーイングを守るために行われます。


参照:武田裕子 格差時代に医学教育で取り組む「SDH(Social Determinants of Health)」とは?一般財団法人オレンジクロス「社会的処方白書」



3)なぜ重要視されているのか

少子高齢化、未婚化・晩婚化、核家族化などを背景に、単身世帯や単身高齢者が増加し地域社会を支える人と人の「つながり」は希薄化しています。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴った地域交流の機会減少や外出自粛により、孤独・孤立問題が顕在化・深刻化したと言われています。

また、相対的貧困率も上昇傾向にあり、その中でも65歳以上の高齢者の割合が高く、若年層ではひとり親世帯の割合が高くなっています。

図:世帯員の年齢階級別にみた相対的貧困率 推移(平成29年度 厚生労働省)


こうした孤独や貧困の問題が浮き彫りになる中で、本人とともに問題を解決していくための取り組みとして、社会的処方が重要視されています。


参照:厚生労働省 孤独・孤立対策の重点計画 厚生労働省 貧困率の年次推移


2.社会的処方の事例


宇都宮医師会
宇都宮市医師会では、2019年に「宇都宮市医師会社会支援部」が発足され、「SDHの概念を啓発、社会資源をウェルビーイングのために有効に活⽤、健康格差の是正」を主な目的とし、活動されています。


そして厚生労働省のモデル事業として、社会的処方の「地域包括ケアシステム」を活用した実践と課題の検証を実施されており、社会的処方のシステム構築を目指されています。

図:「社会的処方」の実践と検証(宇都宮市医師会)(厚生労働省「医療・介護の総合確保に向けた取組について」)


■気づきシート

医療機関において医師等に、患者の「生活上の課題の気づき」を促す”気づきシート”を導入。アセスメントを補完するツールとして使用されている。


他にも、医療機関とリンクワーカーの情報共有や、リンクワーカー制度化の整備、患者へ選定した社会資源の妥当性などについて、実践と検証が進められています。


大多和医院

千葉県白子町にある大多和医院では、クリニック自体が地域のハブとなり、医療の枠をこえた人との繋がりを築くさまざまな活動を行われており、2023年2月には白子町と包括連携協定を結ばれています。


「世代を超えていろいろな人が交流できる場を提供し、地域全体で子どもの面倒をみる場所を作りたい」という思いから、地域交流の場となるカフェの開設や、こどもイベントの開催をされています。


人の繋がりを築く場所としてはもちろん、地域住民から「訪問診療の必要がある家族がいる」などの声を聞くこともでき、医療ニーズに気づく場としての役割も担っています。

3.社会的処方の流れ・医療機関の役割

1)社会・経済的課題を発見する

医療機関を受診した患者の身体的な問題だけでなく、貧困や孤立など社会的・経済的な課題をスクリーニングする。


<役割>病気の背景にある社会・経済的課題に気づくこと

患者が医療機関を受診し、受付から会計し帰るまで、受付・事務、看護師、医師などとコミュニケーションを取ります。その中で医療者が、患者の医療ニーズの背景にある社会・経済的課題に適切に気づき、発見することが社会的処方の起点となります。

診察時のヒアリング内容や様子を観察すること、患者の話にしっかりと耳を傾けることで、患者とともに課題を認識することができるでしょう。前述した宇都宮市医師会の取り組みにあるような、アセスメントツールの使用も有効であると考えられます。

 

2)地域社会へつなげる

社会・経済的課題が、患者の医療ニーズの背景である場合、課題解決につなげる「リンクワーカー」へと患者を紹介する。リンクワーカーが地域のNPO・関係機関やコミュニティにつなげていく。


<役割>リンクワーカーと連携し適切に地域社会へつなげること

日本において、現在リンクワーカーは、医療職やケアマネージャー、社会福祉士などが兼任していることが多いです。そのため、リンクワーカーが医療機関内に存在する場合と、医療機関外に存在する場合が考えられます。

医療機関外(例えば、地域支援包括センターや市町村の福祉協議会、ボランティアなど)のリンクワーカーに紹介する場合でも、発見された社会的な課題、受診に至った身体的な課題など、適切に情報共有ししっかりと連携していくことで、より患者に合ったサポートが行えると考えられます。

 

3)生活に伴走する

リンクワーカーに紹介して終わりではなく、関係者とともに継続的に関わりを持つ。


<役割>社会的処方の効果を判断し、改善していくこと

リンクワーカーにより行われた社会的処方が患者に合っているか、患者の健康リスクは低減したか、効果の評価を行うとともに、継続するか、期間はいつまでか等の判断を関係者とともに継続して行っていきます。



参照:一般財団法人オレンジクロス「社会的処方白書」



社会的処方を活用していくために

社会的処方を適切に行っていくためには、患者、医療機関、リンクワーカー、地域の組織やコミュニティが、お互いにコミュニケーションを取りながら繋がることが大切です。



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